Qi (ワイヤレス給電)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Qi
ステータス Active
初版 2008年 (16年前) (2008)
最新版 2
2023年1月
組織 ワイヤレス・パワー・コンソーシアム
ドメイン インダクティブ充電
ウェブサイト www.wirelesspowerconsortium.com ウィキデータを編集

Qi(チー、発音 [] CHEE;[1]」, 簡体字中国語: ; 繁体字中国語: , に由来)は、インダクティブ充電(非接触充電)を使用したワイヤレス電力伝送のインターフェース規格[2]。この規格により、スマートフォンなどの互換性のあるデバイスは、Qi充電パッドに置くとバッテリーを充電できるようになり、最大4 cmの距離でも効果的に充電できる。

概要[編集]

初期のQi(v 1.0)は、古くから実用化されていた「電磁誘導方式」を元にしている。これは、2つの隣接するコイルの片方に電流を流すと発生する磁束を媒介して、隣接したもう片方に起電力が発生する電磁誘導の原理を用いたものである。この方式によるワイヤレス給電システムは過去に幾つか実用化されていたが、独自開発のものが多く、異企業間での機器の相互利用が出来ない状態が続いていた[2]

そのような欠点を解消するため、2008年にWPCが立ち上げられ、企業間での相互利用を可能とする国際標準規格を策定する事となり、2010年7月に『最大5Wの低電力向け』Qi規格(Volume I Low Power)の策定を完了した[2][3]。使用する周波数帯は110kHzから205kHzまでの間と定められている。これはAirFuel AllianceのPMA規格(100kHzから200kHz)とほぼ一緒であり、受電側から送電側へのデータ通信はハードウエアレベルで互換性があるために両方を統合することも可能である[4]

WPCではQi規格(v 1.1)からQ値の低い磁界共振を一部取り入れて受電側だけを共振させるという広義の電磁誘導であり、同時に広義の磁界共振ともいえる構成となっている[5]。その後、v 1.21では受電側の共振は断念され、送電側のみが共振する構成となっている。

さらにWPCでは中電力向けQi規格(Volume II Middle Power[2])の検討が進められている[6]。この中電力向けQi規格v 1.2ではまず15Wでの充電に対応し、将来的に200Wまで供給する事が可能となる[7]。そして2015年6月23日に15W規格書が策定された[8]

当初(2011年頃)、NTTドコモを中心とした日本企業が本規格を推進していたが、前述の充電の遅さに加え、当時はワイヤレス給電規格が複数存在しており、スマートフォン業界がどの方式を採用するかの方向性が定まっていなかったこと、更にQiを推進していた一部のスマートフォンメーカー(パナソニック モバイルコミュニケーションズNECカシオモバイルコミュニケーションズなど)がスマートフォンの製造・販売を終了し、後継のスマートフォンが出てこなかったこともあり、一時期劣勢を強いられていたこともあった[9]

その後、2010年代後半に大容量電力送信の規格書が策定され、急速充電の問題が解消されたことやスマートフォン市場で高いシェアを占めているサムスン電子Samsung Galaxyシリーズ)とAppleiPhoneシリーズ)が本規格を採用したこともあり、対応機器が一気に増加した[9][10]

ただ、既存のQi規格はホストとクライアントのコイルの中心が一致したときにのみ最大の効率が得られ、少しでもズレると効率が落ちる問題があった。この問題を解消すべく、2023年1月、WPCはAppleと協力し、MagSafeの技術を積極的に取り入れたQi2を発表した。[11]

Qi2ではコイルを囲むように磁石が配置されており、デバイスを近づけると磁力によりコイルの中心同士が一致させられる仕組みとなっている。また、この技術によりコイルのズレにより発生する可能性が指摘されている高出力での発熱の問題が解消される見通しで、WPCはQi2を2024年中旬までに15Wを超える出力に対応させると約束している。[12]

2023年9月12日、初めてQi2に公式に対応したデバイスIPhone 15/15 Plus及びIPhone 15 Pro/Pro Maxが発表された。[13]

通信[編集]

充電台(送電側)と携帯機器(受電側)との間では受電側から送電側への単方向通信が行われる。パッシブRFIDタグと同様の後方散乱変調を利用しており、受電側での負荷を変動させることによる2値ASKとなっている。通信速度は2kbpsで、1オクテットにつきスタートビット(1)、パリティビット(ODD)、ストップビット(0)それぞれ1ビットを伴う。

受電側は電力を受け取っている限り定期的にパケットを送り返すことになっており、これにより送電側は充電面上にあるものがQi対応機器なのかそれ以外の異物なのかを判断できる。通信の内容は受電量の必要量に対する差分、送電停止要求、受電中の電力、携帯機器の充電率が主であるが、充電開始時には受電側の識別情報が送られ、機器固有の情報が送られる場合もある。

策定団体[編集]

ワイヤレスパワーコンソーシアムは2008年12月17日設立で、事務局はアメリカ合衆国ニュージャージー州のIEEE-ISTOに置かれている。2022年6月22日時点で351社が会員となっている[14]

正会員(Regular membership[15]
仕様策定をはじめとするコンソーシアム運営全般に責任を負う企業。業界ごとに定数があり、順次拡大しているが現在のところ最大25企業が正会員となる。
採用会員(Adopter membership
正会員に対して・取締役会の選挙における議決権、・WPC仕様の作業草案へのアクセス、が制限される。
準会員(Associate membership
正会員に対して・取締役会の選挙における議決権、・WPC仕様の作業草案へのアクセス、・Qi認定製品データベースに製品登録が制限される。
ワイヤレスパワーコンソーシアム正会員企業
業界(定数) 企業
ワイヤレス給電(5) ConvenientPower, Fulton Innovation, PowerbyProxi, クアルコム, ロバート・ボッシュ
半導体(8) IDT, MediaTek, NXP, ローム, STマイクロエレクトロニクス, ソニー, テキサス・インスツルメンツ, 東芝
電機(3) ハイアール・グループ, フィリップス, LGエレクトロニクス
携帯電話(4) Apple, HTC, ノキア, ベライゾン・ワイヤレス
電池(1) パナソニック
携帯情報端末(1) サムスン電機
自動車(1) Delphi Automotive
その他(2) Leggett & Platt, AirCharge

沿革[編集]

  • 2008年12月17日 - 充電式電池を開発している企業等によりWPC設立。設立時のメンバーは、ConvenientPower、Fulton Innovation、LogitechNational SemiconductorRoyal Philips Electronics三洋電機、Shenzhen Sang Fei Consumer Communications、Texas Instrumentsの8社[16]
  • 2009年8月17日 - 低電力用バージョン0.95規格書の策定と名称(Qi)およびロゴの公表。
  • 2010年7月23日 - Qiバージョン1.0規格書の策定、公開[2][3]
  • 2012年4月21日 - 低電力用Qiバージョン1.1規格書の公開。受電側だけを共振させる一部磁界共振を採用することにより送電ユニットの設計自由度が大幅に上がり、異物検出能が改善された。
  • 2015年6月23日 - 中電力用Qiバージョン1.2規格書の策定[8]
  • 2021年1月 - Qiバージョン1.3規格書の策定(規格書の全面改版により15分冊となった)(最新版は1.3.1)。
  • 2023年1月 - Appleの「MagSafe」をベースとした後継規格「Qi2」を発表[17]

対応機種[編集]

NTTドコモ
au (KDDI沖縄セルラー電話連合)
UQ WiMAX
  • Huawei モバイルルーター HWD14 Wi-Fi WALKER WiMAX2+
日立マクセル
  • WP-SL10A iPhone4用ワイヤレス充電対応ケース
  • MXQI-CVA20 iPhone5用ワイヤレス充電対応ケース
  • WP-EMCVA10 iPhone4 / 4S用ワイヤレス充電対応ケース
デンソー
  • WP-EMCVA10 iPhone4/4S用ワイヤレス充電対応ケース
サンワサプライ
  • WLC-IPH11 iPhone4/4S用ワイヤレス充電対応ケース
ソフトバンクモバイル
イー・モバイル (イー・アクセス)
Y!mobileソフトバンクモバイルウィルコム沖縄
Google
三洋電機
サンワサプライ
  • ENERLINKシリーズ
ノキア
日立マクセル
  • エアボルテージシリーズ
パナソニック
  • チャージパッドシリーズ
  • DIGA ブルーレイレコーダー DMR-BZT920/830
  • DIGA フォトレコーダー DMR-HRT300
  • デジタルビデオカメラ HC-V720M (同梱バッテリーパック)
  • デジタルビデオカメラ HC-W850M (同梱バッテリーパック)
  • USBモバイルバッテリ QE-PL101/102/103/201/202/203/301/302
  • エボルタ充電ケース QE-CV201 (単3/単4NiMH専用)
ペンタックス
  • PENTAX WG-3 GPS
TDK Life on Record(イメーション
  • ワイヤレススピーカー Q35
コニカミノルタテクノロジーセンター
  • Symfos LED-TASKLIGHT
Apple


デンソー
  • 車載用ワイヤレス充電器
自動車のQi充電台(トヨタ・プリウス
トヨタ自動車
レクサス
本田技研工業

日産自動車

BMW

ボルボ

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ Wireless Power Consortium”. 2022年5月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e EE Times Japan (2011年2月11日). “「Qi」規格に集うワイヤレス給電、5W以下のモバイルから普及へ”. 2011年7月5日閲覧。
  3. ^ a b IT media (2010年12月2日). “2015年には充電の概念が変わる――ワイヤレス充電規格「Qi」の展望と課題”. 2011年7月5日閲覧。
  4. ^ IDTのワイヤレス給電レシーバIC デュアルモード (Qi + AirFuel Inductive)ソリューション
  5. ^ “WPCがワイヤレス給電の規格を改定、「磁界共鳴方式」を初採用へ”. 日経クロステック. (2012年4月23日). https://xtech.nikkei.com/dm/article/NEWS/20120423/214450/ 
  6. ^ Extention to medium power” (2011年3月23日). 2011年7月5日閲覧。
  7. ^ https://www.wirelesspowerconsortium.com/about/about-wpc/
  8. ^ a b Wpc Increases Power,Improves User Experience With New Qi Wireless Power Standard Specification” (PDF) (2015年6月23日). 2015年8月11日閲覧。
  9. ^ a b 佐野正弘 (2019年1月21日). “知って納得、ケータイ業界の"なぜ"(30) 一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由”. マイナビニュース. 2020年12月19日閲覧。
  10. ^ ついにiPhoneが対応した「チーのワイヤレス充電」ってなんだ?”. ITmedia NEWS (2017年10月18日). 2020年12月19日閲覧。
  11. ^ New Qi2 Standard for Wireless Devices Ensures Enhanced Consumer Convenience and Efficiency” (PDF) (英語). Wireless Power Consortium (WPC). 2023年9月12日閲覧。
  12. ^ SCHARON HARDING. “First Qi2 chargers look to expand MagSafe-like wireless charging beyond Apple” (英語). ars TECHNICA. 2023年9月12日閲覧。 “The WPC also promises to update the Qi2 standard to support charging beyond 15 W, with a goal of mid-2024, a WPC rep told Android Authority in January.”
  13. ^ The new iPhone 15 lineup supports both MagSafe and Qi2 wireless charging” (英語). 2023年9月14日閲覧。
  14. ^ Wireless Power Consortium Members”. 2022年6月22日閲覧。
  15. ^ HOW TO JOIN THE WPC”. 2022年6月22日閲覧。
  16. ^ WIRELESS POWER CONSORTIUM SELECTS CLOSE-RANGE MAGNETIC INDUCTION TECHNOLOGY FOR STANDARD AND WELCOMES OLYMPUS AS NEW MEMBER” (2009年1月20日). 2013年12月1日閲覧。
  17. ^ 佐藤信彦 (2023年1月5日). “次世代ワイヤレス充電規格「Qi2」、アップルの「MagSafe」ベースに--対応デバイスは年内登場”. CNET Japan. 2023年1月8日閲覧。
  18. ^ a b c d 「Qi2」って何ですか? - いまさら聞けないiPhoneのなぜ”. マイナビニュース (2023年12月15日). 2023年12月17日閲覧。
  19. ^ ワイヤレス携帯電話充電器”. ボルボ (2019年11月13日). 2019年12月27日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]