ふじみ野市散弾銃男立てこもり事件
ふじみ野市散弾銃男立てこもり事件（ふじみのしさんだんじゅうおとこたてこもりじけん）とは、2022年（令和4年）1月27日に埼玉県ふじみ野市において発生した立てこもり事件である。この事件は発生から11時間後に埼玉県警察特殊戦術班（STS）が閃光弾を使用して容疑者を逮捕したことにより解決した。
| ふじみ野市散弾銃男立てこもり事件 | |
|---|---|
 事件現場となった住宅（2022年2月撮影） | |
| 場所 |
 日本 埼玉県ふじみ野市大井武蔵野 |
| 標的 | 医師 B（44歳男性）、理学療法士 C（41歳男性）、医療相談員 D（32歳男性）、他医療関係者4名 |
| 日付 | 2022年（令和4年）1月27日 (21時頃 - 翌日8時頃) |
| 攻撃手段 | 散弾銃による発砲、催眠スプレー噴射 |
| 武器 | 散弾銃、催眠スプレー |
| 死亡者 | 医師 B（44歳男性） |
| 負傷者 | 理学療法士 C（41歳男性）、医療相談員 D（32歳男性） |
| 犯人 | A（66歳の男） |
| 容疑 | 殺人未遂 |
| 対処 | 警察の特殊部隊の強行突入による緊急逮捕 |
概要 編集
本件被疑者であるA（66歳・男）の母親が前日26日に死亡し、母親が利用していた出張介護クリニックの医療関係者6名をAが呼び出し、診療内容について医療関係者に逆恨みし、医療関係者7名を散弾銃や催眠スプレーで攻撃し、そのうちの1人である医師 B（44歳・男）を人質に取り自宅に立てこもった[1][2][3][4][5]。
この事件でAに胸を銃撃された医師 Bが心肺停止となり死亡[1][2][3][4][5]。
また本件人質が重傷を負い、時間的猶予がない状況であるにも関わらず、警察による被害者救出および被疑者の逮捕が大幅に遅れたことも批判の対象となっている[1][2][4][5]。
経緯 編集
犯人 A（66歳・男）は母親（92歳）のために出張介護クリニックを利用しており、被害者の医師 B・理学療法士 C（41歳・男）・医療相談員 D（32歳・男）は出張介護クリニックの医療関係者であった[1][2][4][5]。
2022年1月26日にAの母親が亡くなり、Aは翌日27日に上記の医療関係者3名を含めた7名を弔問に呼び出したが母親の診療を巡りトラブルとなり、医師 Bの胸に散弾銃を発砲し、理学療法士 Cは胸部を撃たれ、医療相談員 Dは顔面に催涙スプレーをかけられた[1][2][4][5]。他の4名はAが持っていた散弾銃2丁のうち1丁を取り上げたが避難した[1][2][4][5]。Aは医師 Bを人質に取り、埼玉県警察本部は警察官359名を現場周辺に動員し、付近の避難所に99世帯214人を避難させる事態となった[1][2][4][5]。
捜査員は電話でAと交渉に当たり、Aは警察に「人質は大丈夫だ」などと伝えていたが医師 Bは重体の状態であり、埼玉県警察本部刑事部捜査第一課長によると「生存しているとの想定の下で交渉を続けていた」ということで長時間の間警察は自宅突入を行わなかった[1][2][4]。
Aは複数回の電話での捜査員による説得に対し「（医師 Bを）救出したい」「動かない」などと精神的に不安定な様子を示すようになり、そのうち応答しなくなった[4][5]。事件発生11時間後の翌日 午前8時になってやっと警察が閃光弾を放って自宅に突入したが、玄関脇の6畳間の和室で胸を銃撃された医師 Bが仰向けになって倒れており、心肺停止となり死亡が確認された[1][2][4][5]。側には母親の遺体と散弾銃が置かれていたという[4][5]。Aはベッドと掃き出し窓の狭い隙間に身を隠していたが身柄を確保された[4][5]。
現場突入による被疑者確保と人質の救出が事件発生11時間後になったことについて、埼玉県警察本部刑事部捜査第一課長は「できるだけのことはやった」と語った[4]。
事件前のAの異常な行動 編集
医師 Bが所属する医師会には2021年（令和3年）1月から翌年、2022年1月24日までの間にAから母親の診療方針について十数回にわたって電話相談があったといい、母親を入院させるよう勧める医師 Bの意見に反対し在宅で介護を続けたいと話しており、埼玉県警は母親が死亡したことで容疑者が診療に当たっていた関係者を逆恨みした可能性があるとして慎重に動機を調査した[1][2]。
Aの母親が10年以上通っていた病院の関係者はAが医師の判断や治療方針を巡ってトラブルを繰り返していたことを明かし、Aは母親の事になると感情の歯止めが利かず、「うちの母親を（先に待つ他の患者より）先に診ろ」などと求め、職員が断ると大声で怒鳴り散らすことが度々あったという[3]。母親の肺を検査した際にはAはステロイド系の薬を処方するよう要求したが、重大な症状は出ていなかったことからステロイドを使用しないことを勧められると「専門医なのに何も分かっていない」などと書いた長文の抗議文を提出しており、胃カメラを使う検査では担当者の変更を迫ったこともあったという[3]。
対応 編集
埼玉県 編集
埼玉県は事件を受けた安全確保対策として、2022年12月、在宅医療や訪問介護などの従事者向けに、患者や利用者、その家族から受けた暴力行為やハラスメントについての相談窓口を設けた。 電話やメールを通じて相手との接し方や、警察への通報時の注意点などを、実際に医療機関などでクレーム対応にあたってきた経験を持つ相談員がアドバイスする[8]。
ふじみ野市 編集
事件を受け、在宅医療や訪問介護などの従事者の安全確保を目指す「守る条例」を制定する予定。条例案は、地域医療・介護の担い手が安心して従事できるよう、信頼関係の構築を目標に置く。市民には「適切な医療・介護の利用に努める」ことを責務とし、医師や介護福祉士らの側には「患者や利用者、その家族の立場を理解する」よう求める[9]。
脚注 編集
- ^ a b c d e f g h i j “亡くなった医師、母親の死亡確認も…事件直前に呼び出され７人で訪問 : 社会 : ニュース”. 読売新聞オンライン (2022年1月28日). 2022年1月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j “母親死亡で逆恨みか、立てこもり容疑者「謝らせたかった」…地域の医師会長「在宅医療が揺らぐ」 : 社会 : ニュース”. 読売新聞オンライン (2022年1月29日). 2022年1月29日閲覧。
- ^ a b c d “「母に失礼をしたら…」 容疑者、別の病院で度々抗議 埼玉立てこもり”. 毎日新聞. 2022年1月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m “ベッドに母遺体、身潜める男 閃光弾で突入、医師も同じ部屋に―人質立てこもり：時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2022年1月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k 日本放送協会. “埼玉 立てこもり事件 医師は散弾銃で撃たれ死亡 容疑者は黙秘”. NHKニュース. 2022年1月29日閲覧。
- ^ “医師射殺の罪で男起訴 埼玉の立てこもり、地検”. 産経新聞. (2022年7月1日) 2022年7月1日閲覧。
- ^ “散弾銃で医師射殺、男に無期懲役判決 さいたま地裁”. 産経新聞. (2023年12月12日) 2023年12月12日閲覧。
- ^ “在宅医療従事者ら向けの相談窓口を設置 立てこもり事件を受け”. 朝日新聞. (2022年12月7日) 2022年12月18日閲覧。
- ^ “医師死亡の発砲・立てこもり受け、訪問医療・介護「守る条例」制定へ…埼玉・ふじみ野市”. 読売新聞. (2022年12月17日) 2022年12月18日閲覧。