罪の声

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罪の声』(つみのこえ)は、塩田武士サスペンス小説2016年発表。講談社刊。

グリコ・森永事件をモチーフとしている[1]2016年度週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位[2]、第7回山田風太郎賞受賞[3]

2020年土井裕泰監督、小栗旬主演で映画化された。

執筆の経緯[編集]

塩田は大学時代にグリコ・森永事件の関係書籍を読み、脅迫電話に子どもの声が使われた事実を知り、自らと同年代でもあるその子どもの人生に関心を抱いたという[1]。将来的にはこれを題材とした小説を執筆したいと考えていたが、塩田は新聞社に就職、記者となった。

その後、塩田は2010年に小説家としてデビューし、担当編集者に相談をもちかけたものの、筆力の低さを理由に断られてしまったため、さらに5年を待って執筆を開始した[1]。執筆に際して、1984年から1985年にかけての新聞にはすべて目を通しているという[1][注 1]。作中の犯人はフィクションであるが[1](実際のグリコ・森永事件でも、犯人検挙には至らず未解決事件となっている)、各事件の発生日時、犯人による脅迫状・挑戦状、事件報道は「極力史実通りに再現しました」としている。

あらすじ[編集]

京都市内で紳士服のテーラーを営む曽根俊也は2015年夏のある日、父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには大量の英文のほか、「ギンガ」と「萬堂」の文字が書かれていた。さらにテープを再生すると、何かを語る子供の声が聞こえてきた。

それは31年前、大手製菓メーカーのギンガと萬堂をはじめ食品会社数社が脅迫・恐喝され、既に時効となったものの、現在も未解決のままの“ギンガ萬堂事件”(ギン萬事件)の脅迫犯の音声と全く同じものだった。これが幼い頃の自分の声だと確信した俊也は、父の代から親交のある堀田信二に事情を打ち明ける。堀田はノートを預かり、数日後に俊也を誘って、30年にわたって消息不明の俊也の伯父を知る人物と面会し、伯父の来歴や消息などについて話を聞いた。その人物はギン萬事件と伯父の関わりをうかがわせるようなことを口にした。

一方、ちょうど同じころ、大日新聞大阪本社で文化部記者を務める阿久津英士は、年末掲載予定のギンガ萬堂事件の企画記事に応援要員として駆り出された。イギリスに出張を命じられ、1983年のハイネケン社長誘拐事件について元誘拐交渉人に取材したり、当時イギリスでハイネケン事件を調べていたという中国人を探したものの、空振りに終わる。帰国した阿久津は、事件前にギンガの株価を扱った証券雑誌の記事を見て、仕手筋のやり口を証券関係者から聞いたりするが、事件に直接結びつく話には至らなかった。

堀田と俊也は、得た情報をもとに犯人グループが会合を開いたという料理屋に話を聞きに行く。伯父がいたという証言は得られなかったが、板長は堀田が特徴を伝えた別の男はいたと答える。堀田はそのあとで、生島というその男が元滋賀県警察の人物で、伯父とも交友があったと俊也に打ち明けた。

成果の出ない阿久津は、「くら魔天狗」と名乗っていた犯人グループの無線交信を傍受録音した人物が愛知県にいたという事件当時の取材記録から、再度その情報を洗うことにした。空振りかと思われた取材は、意外な形で成果をもたらした。そこから浮かび上がった人物が常連だったという料理屋に阿久津が取材に入ろうとするころ、堀田と俊也は生島の家族の消息を知る人物を追っていた。やがて、俊也と阿久津はお互いの存在を知る。

主な登場人物[編集]

俊也とその関連人物[編集]

曽根俊也
京都市内で父の後を継いでテーラーを営む。既婚で母・妻・娘との4人暮らし。自らの声のテープと父の遺品のノートから、父親が事件に関与したかどうかを知りたいという思いで調査を進める。キツネ目の男を見たおぼろげな記憶がある。36歳[注 2]
堀田信二
京都市内でアンティーク家具商を営む。俊也の父とは幼馴染。俊也の調査に協力する。61歳[注 3]。父親は元京都府警察の刑事。映画版には登場しない。
曽根達雄
俊也の伯父(父親の兄)。新左翼運動とかかわりを持っていた。30年以上前にイギリスで消息を絶っている。
曽根清太郎
俊也の祖父、達雄の父。ギンガに勤めていた1974年に、過激派から内ゲバの標的と間違われて撲殺される。

阿久津と大日新聞の人物[編集]

阿久津英士
大日新聞大阪本社文化部の記者。学生時代に英検準1級に合格。姫路と京都、大阪で警察担当を経験。36歳で[注 4]独身。実家は神戸市北区
鳥居
大日新聞大阪本社社会部の事件担当デスク。ギン萬事件企画記事を発案した。
水島
大日新聞の広告子会社社長。かつては大阪本社社会部次長を務め、ギン萬事件当時は大阪府警察担当。事件当時の資料を保管しており、阿久津に提供する。

その他[編集]

生島秀樹
滋賀県警察の暴力団対策担当刑事だったが、暴力団からの収賄を疑われて内密に警察をやめさせられる。辞職後は京都の警備会社に勤務していた。曽根達雄とは柔道の道場で面識があった。30年以上消息不明。

書誌情報[編集]

  • 塩田武士『罪の声』講談社、2016年。ISBN 978-4-06-219983-4 
  • 塩田武士『罪の声』講談社〈講談社文庫〉、2019年。ISBN 978-4-06-514825-9 

漫画[編集]

須本壮一の作画で、『イブニング』(講談社)において2017年(平成29年)6号から2018年(平成30年)まで連載された。

オーディオブック[編集]

Audible配信版[編集]

2018年8月26日よりAudibleから三好翼による朗読のオーディオブックが、データ配信されている[4]

audiobook.jp配信版[編集]

2020年4月30日よりaudiobook.jpから登場人物ごとにキャストを割り当てたオーディオブックが、データ配信されている[5]

キャスト[編集]

映画[編集]

罪の声
監督 土井裕泰
脚本 野木亜紀子
原作 塩田武士『罪の声』
製作 那須田淳
渡辺信也
進藤淳一
出演者 小栗旬
星野源
松重豊
宇野祥平
古舘寛治
市川実日子
火野正平
宇崎竜童
梶芽衣子
音楽 佐藤直紀
主題歌 Uru振り子
撮影 山本英夫
編集 穗垣順之助
制作会社 TBSスパークル
フイルムフェイス
製作会社 「罪の声」製作委員会
配給 東宝
公開 日本の旗 2020年10月30日
上映時間 142分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
興行収入 12.4億円[6]
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2020年10月30日に公開された。監督は土井裕泰。主演は小栗旬[7][8][9]。小栗と星野源の初共演作品でもあり、一部メディアでは「小栗旬と星野源のW主演」と報じられた[10][11][12]

撮影にあたっては、小栗のスケジュールが『ゴジラvsコング』(2021年公開)の撮影と被っていたが、本作の撮影期間を1か月ずらしたことにより、小栗が『ゴジラvsコング』の撮影地であるオーストラリアへ行くことができたという[13]

キャスト[編集]

スタッフ[編集]

受賞(映画)[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 作中の阿久津も鳥居の命でこの2年間の縮刷版を読まされる場面がある(単行本、p.67)。
  2. ^ 母親が28歳の時を回想する場面で、俊也が「今の自分より八つも若い」と思う描写がある(単行本、p.391)。
  3. ^ ギン萬事件が「三十のとき」と述べている(単行本、p.42)。
  4. ^ 「五年前に(中略)三十一歳」とある(単行本、p.79)。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e グリ森事件の「真犯人」を追い続けた作家が辿り着いた、ひとつの「答え」 - 現代ビジネス(2016年8月11日)
  2. ^ “週刊文春ミステリーベスト10 2016年【国内部門】第1位は『罪の声』”. 文春オンライン. (2016年12月1日). https://bunshun.jp/articles/-/307 2019年6月6日閲覧。 
  3. ^ “第七回 山田風太郎賞 決定”. 週刊読書人ウェブ. (2016年10月28日). https://dokushojin.com/article.html?i=420 2019年6月6日閲覧。 
  4. ^ “Amazon.co.jp: 罪の声 (Audible Audio Edition)”. amazon.co.jp. 2021年3月5日閲覧。
  5. ^ 罪の声 - 日本最大級のオーディオブック配信サービスaudiobook.jp”. audiobook.jp. 2021年3月5日閲覧。
  6. ^ "2021年 上半期作品別興行収入(10億円以上)" (PDF). 東宝. 2021年7月30日. 2022年10月12日閲覧
  7. ^ “小栗旬×星野源共演『罪の声』10月30日公開! 主題歌はUru”. cinemacafe.net (イード). (2020年8月19日). https://www.cinemacafe.net/article/2020/08/19/68558.html 2021年1月31日閲覧。 
  8. ^ “「アンナチュラル」組再び!松重豊、市川実日子ら『罪の声』に集結”. シネマトゥデイ. (2020年10月24日). https://www.cinematoday.jp/news/N0119436 2021年1月31日閲覧。 
  9. ^ “小栗旬&星野源、『罪の声』で報知映画賞主演&助演男優賞受賞 主演女優賞には水川あさみ”. クランクイン! (ブロードメディア). (2020年12月2日). https://www.crank-in.net/news/83602/1 2021年1月31日閲覧。 
  10. ^ “小栗旬・星野源W主演『罪の声』原作ついに首位:週間ベストセラー 文庫ランキング(2020年11月10日 日販調べ)”. ほんのひきだし (日本出版販売). (2020年11月11日). https://hon-hikidashi.jp/more/117989/ 2020年12月6日閲覧。 
  11. ^ “星野源 小栗旬の男前発言に「許されるのがカッコいい」”. デイリースポーツ online (デイリースポーツ). (2020年11月11日). https://www.daily.co.jp/gossip/2020/11/11/0013857778.shtml 2020年12月6日閲覧。 
  12. ^ “初バディの小栗旬と星野源 絶妙なバランスで演じた“普通””. NEWSポストセブン (小学館). (2020年11月28日). https://www.news-postseven.com/archives/20201128_1616628.html?DETAIL 2020年12月6日閲覧。 
  13. ^ “小栗旬、『ゴジラvsコング』で感じた悔しさと孤独 ─ 「謙さんはすごい」ハリウッド再挑戦へ準備”. THE RIVER (riverch). (2021年7月2日). https://theriver.jp/gvk-shun/ 2021年7月7日閲覧。 
  14. ^ a b “小栗旬と星野源が昭和最大の未解決事件に翻弄される、小説「罪の声」映画化”. 映画ナタリー (ナターシャ). (2019年4月18日). https://natalie.mu/eiga/news/328379 2019年4月18日閲覧。 
  15. ^ a b “映画『罪の声』小栗旬×星野源が初共演、昭和最大の未解決事件に挑む - ベストセラー小説を映画化”. ファッションプレス (株式会社カーリン). (2019年4月18日). https://www.fashion-press.net/news/49160 2019年4月18日閲覧。 
  16. ^ a b c d e f g h i “小栗旬×星野源「罪の声」の特報公開、新キャストに市川実日子、梶芽衣子、松重豊ら”. 映画ナタリー (株式会社ナターシャ). (2020年6月24日). https://natalie.mu/eiga/news/384574 2020年6月24日閲覧。 
  17. ^ “小栗旬&星野源の映画「罪の声」、主題歌はUru「この曲が希望になることを願います」”. 音楽ナタリー (株式会社ナターシャ). (2020年8月19日). https://natalie.mu/music/news/392609 2020年8月19日閲覧。 
  18. ^ “小栗旬・二宮和也・長澤まさみ・広瀬すずら「第44回日本アカデミー賞」優秀賞発表〈受賞者・作品一覧〉”. モデルプレス (ネットネイティブ). (2021年1月27日). https://mdpr.jp/news/detail/2409907 2021年1月27日閲覧。 
  19. ^ ●速報! 第44回 日本アカデミー賞 最優秀賞 受賞作品・受賞者 決定(2021.3.19)、日本アカデミー賞公式サイト、2021年3月19日閲覧。
  20. ^ “「オールナイトニッポン」リスナーが選ぶ『日本アカデミー賞 話題賞』最終結果発表!”. SCREENONLINE. (2021年2月26日). https://screenonline.jp/_ct/17434312 2021年2月27日閲覧。 
  21. ^ “【報知映画賞】『罪の声』3部門制覇、小栗旬&星野源が男優賞 アニメ作品賞は『鬼滅の刃』”. ORICON NEWS (オリコン). (2020年12月2日). https://www.oricon.co.jp/news/2178035/full/ 2020年12月6日閲覧。 
  22. ^ 第42回ヨコハマ映画祭 2020年日本映画個人賞、ヨコハマ映画祭実行委員会、2020年12月7日閲覧。
  23. ^ 2020年日本映画ベストテン、ヨコハマ映画祭実行委員会、2020年12月7日閲覧。
  24. ^ 『鬼滅の刃』石原裕次郎賞受賞 『罪の声』が「日刊スポーツ映画大賞」作品賞に」『ORICON NEWS』オリコン、2020年12月28日。2021年1月9日閲覧。
  25. ^ “第75回毎日映画コンクール:「日本映画大賞」は長澤まさみ主演の「MOTHER マザー」 “毒親”役が話題に”. まんたんウェブ. (2021年1月21日). https://mantan-web.jp/article/20210121dog00m200054000c.html 2021年1月27日閲覧。 
  26. ^ 決定! 2021年 第45回エランドール賞”. 日本映画テレビプロデューサー協会 (2021年2月4日). 2021年2月4日閲覧。
  27. ^ キネマ旬報 ベスト・テン、KINENOTE、2021年2月25日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]